黒いサザエさん#1
時は1999年、世界は核の炎に包まれることなく、至って平和に見えた。
しかし、東京の一角練馬区に住む一家は、まさに世紀末を迎えていた。
もうそこにはあのいつもののんきな一家はいなかった・・・・・。
ある春の日の午後、サザエは波平のオムツを替えていた。
波平は、見ての通り、かなり末期のアルツハイマー病である。
会社を自主退職してしばらく、波平の脳はボケ老人になることを望んだ。
サザエは未だ幸せだった頃の家族の姿を思い出しながら波平をベットに寝かせた。
「父さん・・・・・。あたしはもう疲れたわ・・・・・・。」
生きることに疲れた主婦の心からのため息が漏れる
サザエは静かに瞳を閉じた。
不意にみんなの在りし日の姿が蘇る。
サザエは幸せな気持ちで眠りについた。
ここで今の家族のみんなの現状を紹介をしとこう。
まず一家の大黒柱だった波平だが第四話に収録したから省略。
フネは、波平の退職後、趣味の盆栽 俳句 頭のお手入れに明け暮れ、夫婦の会話は全くない
時々口を開けば「母さん お茶」「母さん ワシの眼鏡しらんかのう」
今思うとあのころからもう病気は進行していたのだ。
話をフネに戻すと そんな波平に嫌気がし、時には殺意めいた物さえ感じていた
あの着物美人もこうなってはただのババアだ
波平のお茶に雑巾汁を入れてみた
しかし もうそのときには味覚がおかしくなったいた波平にキクはずもなく
飯はまだかとさっきからしきりに言っている。
フネの怒りは沸点に達した。
サザエはそのとき母さんが鬼に見えたと後日語っている。
フネはおもむろに出刃包丁を手に取り、
「ぎえええええいいい」と言うような心の叫びを発しながら
庭で夏なのに乾布摩擦している波平めがけ
猛ダッシュ こうなっては着物美人も台無し・・・・
「死ね この野郎うぅぅぅぅぅ」と雄叫び一発
出刃を振り下ろす 「ドスッ」
フネはたまらず笑った「ふふふうふ やったやった」
返り血がばんばん顔に当たる
フネは最高の快感の中にいた。
「病みつきになりそう」そっとささやいたのをサザエは聞き逃さなかった、
フネは快感と満足と達成感といろんな物が入り交じった気持ちだった
フネはゆっくりと目を開く・・・・
足下にあのハゲ頭が見える。
「とうとうやった。」改めて快感を噛みしめるフネ
しかし悲劇は次の瞬間訪れた。
波平のデスマスクを見ようとハゲ頭を蹴り飛ばす
しかしそこにフネの想像していた顔はなかった。
長年見続けた奴の顔を見間違えるはずがない
しかしフネはもう一度目を閉じ深呼吸した。
ゆっくり目を開くがやはり奴の顔ではない
「これは誰だ」しかしフネはハッと気付いた
これは・・・・・・・。
隣のボケ老人仲間のイササカのバカではないか!!
彼も若かりし頃は売れっ子作家として世間に名を馳せていたのだが
彼の元アシスタントの手により、実はすべての作品がゴーストライターに書かせた物だと暴露され
世間にたたかれ、そのまま失脚の一途・・・
波平の乾布摩擦仲間だった。
今日もいつものように摩擦してたのだ。
半狂乱のフネが乾布摩擦するハゲ二人を見極めれるはずもない。
フネの凶刃により昇天したイササカ
彼は最後の瞬間までタオルを放してなかった。
では波平は何処だ!!!
フネは周りを見渡す
波平は物干し竿に止まったトンボの捕獲中であった
指をグルグル回している波平
この騒ぎにも全く興味がないようだ。
しかし血溜まりの中たたずむフネを見つけると
彼はこう言った。
「おお〜母さんめしはまだか」
フネは再び沸点に!!!
出刃をイササカから引っこ抜き
逆手に持ち替え再びダッシュ
しかし殺されかけてるのにトンボに夢中の波平が目に飛び込んできた
フネはその場に泣き崩れた
「この人はもう子供になってしまったの
私は何をしてたのかしら イササカまで殺して
オカルちゃんになんて言えば・・・・・・」
右手の出刃に視線を落とすフネ
「私はとんでもないことをしてしまった。
こうするしか残された道はない」
自分ののどに出刃を突きつける。
目からは大粒の涙
次の瞬間!!
「あなた あいしてるわああああ」
ブスッ ブシャアアアアア ドサア
愛に生き、愛に殉じた、殉星のフネの最後である
お空ではフネの笑顔が見えていそうな雰囲気だ
一方、波平はトンボに飽きたらしく
タラオのかき氷を取り上げ
おいしそうにほうばっている。
隣で一部始終を一緒に見ていたカツオが不意に口を開いた
「母さんもオッチョコチョイだなあ〜姉さんは母さん似だね」
「今回は高い授業料になったけど人間違いには気をつけようね」とワカメ。
カツオが憎たらしそうに、
「姉さんもマスオさん殺すときは気をつけてね」
走っていくカツオを見てると腹が立つ
「こら お待ちカツオ〜〜」
いつもの磯野家だ
ただ一つ、庭に二つの死骸があることを除けば・・・・・・・
あのころは幸せだった・・・・
しかしもうすぐそこまで悪魔の手は伸びているのだが
それはまた別の話