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いつものようにのび太は学校にいた。
それはいつものような晴れた一日の始まりでもある。
学校ではおなじみのジャイアンがいる。
そして、自慢好きのスネ夫、おしとやかなしずかちゃん。 いつもどおりの風景だった。
そして、この日もおなじみのメンバーからストーリーが始まろうしていた。
ジャイアンにのび太がいじめられ、それをドラえもんが助けてくれる。
周知の展開だ。 案の定、学校でのび太がジャイアンにいじめられた。
何をやっても泣くだけののび太。 けっして、自分では解決しようとしない。
そして、いつものようにドラえもんにすがろうとする。 いつもの光景、いつもの展開。

それは見ている者だけでなく、のび太自身そう感じていた。
『このままでいいのか。』 ドラえもんに頼りきっている自分自身に苛立ちを隠せない。
そして、家に着く頃にはジャイアンに仕返しをしようとしていた感情が、
いつのまにか消えていた。
『ドラえもんがいなけりゃ何もできない。』
のびたはそれを認たくなかった。誰に言われた訳でもない。
でも、誰もが考えてる事実だった。
『今日からは自分のことは自分で解決する。』 新たなのび太の決意である。
負けっぱなしののび太。 この境遇から抜け出さなければ、将来の自分さえ哀れに見える。

とりあえず、ドラえもんにその決意を伝えようとした。 ・・・・・。
ドラえもんがいない。どら焼きを買いに町に出ているのだろうか。
いつもの部屋で待つのび太。両手を首の下に置き、足を組みながら横たわる。
横たわる首の辺りには座布団を丸めて枕代わりにしている。 いつものスタイル。
そう、何もかもがのび太は同じ「スタイル」。
それが気に入らなかったのか、のびたは寝返りを打つ。
『それにしても、おそいなぁドラえもん・・・』

いつのまにか寝ていた。もう日も暮れている。なのに、ドラえもんは帰ってこない。
何かがおかしい。 いつもと違う。 のびたは不安に駆られる。
どこかで、道に迷っているのかもしれない。
しっかりしているようで、頼りない一面を持つドラえもん。 のび太が一番良く知っている。
辺りは暗くなってきた。 不安はさらに大きく募る。
その時『のび太、ごはんですよ。』 ママの声がした。
『そうだ、ママに聞こう。』 不安に駆られるのび太、じっとしてはいられなかった。
ただ、妙な不安だけが募る。 『ママ、ドラえもんはどこへ行ったの?』のび太が聞く。
『・・・のびちゃん?どうしたの?ドラえもんって何?』 血の気が引く。
のび太にはママの言っている意味がわからない。
『ドラえもんだよ、ドラえもん。いつもいるじゃない。どうしちゃったの、ママ? 』
『のびちゃん、そんな冗談はママ嫌いです。早くご飯を食べなさい。』
のびたは愕然としている。『そんなはずはない。』 のびたは家を飛び出した。

のびたはしずかちゃんの家に行った。
もしかしたらドラえもんがいるかもしれない、そう思ったのだ。
『ドラえもん来てない?』しずかちゃんに聞いた。
『何それ?ドラえもんって何かしら?』 話にならない。
スネ夫の家に行く。 ジャイアンの家に行く。
『ドラえもん来てない?』 『ドラえもん来てない?』 のびたは至る所を探した。
公園、学校、商店街・・・。だが、誰ひとりとしてドラえもんのことを知らない。
どら焼き屋さんさえ知らない。 のびたは泣きながら家へ帰った。

のびたはご飯も食べずに、部屋で一人になっていた。
『誰もドラえもんのことを知らない・・。』 ただ、それだけが気になって仕方がない。
みんなドラえもんのことを忘れたのだろうか。
それとも、自分が幻覚を見ていたのだろうか。
もしかすると、別の世界に来たのかもしれない。 色々な考えが浮かぶ。
『そうだ、机の引き出しを見ればいいんだ。』 そこにはタイムマシンがある。
思えば全てはここから始まった。ドラえもんはここから現れたのだ。
この引き出しを開けると全てがわかる。
のび太は引き出しに手をかけた。 そして、引き出しを一気に引く。 ・・・・・。
引き出しの中には本が詰まっていた。 タイムマシンなんてものは無い。
のびたの望むものは何ひとつなかった。

ピッピッピッピッピッピ。 静かな空間にデジタル音が鳴り響く。 電子機器の音である。
真白な風景。 白いカーテンからもれる光。そして、それを照らす白い壁。 何もかもが白い。
ピッピッピッピッピッピ。 電子音が鳴り響く。 緑色をした波形がモニタに映っている。
心拍数、脈拍が小刻みに緑の山谷をつくる。 ・・・あれは何年前だろう。
子供の頃、買ったばかりの自転車。
ふらついた自転車に乗った子供がトラックに跳ねられた。
道沿いの花壇がクッションとなり、その子は運良く助かった。
でも、その子は植物人間として人生を過ごしている。
ピッピッピッピッピッピ。 電子音が鳴り響く。
ふと、その空間に別の音が紛れ込む。 白い服を着た女性が部屋に入ってきたためだ。
『今日は良い天気ですね。カーテンを開ッておきますよ。』 白い光が流れ込む。
その光は年老いた1体の体を照らし出した。
老人はその光にも動じず、ただ一点を見詰めている。
ただ白い天井を見つめている。 いつもと同じ風景、同じスタイル・・・。
その老人はいつも同じ生活を演じなければならない。

おしまい

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